知るだけでレッスンの効果が上がる3つの秘訣

バレエと側弯症って関係あるの?

バレエと側弯症って関係あるの?

こんにちは。島田です。

今回は、『バレエと側弯って関係あるの?』という疑問について、お話します。
きっかけは、お会いした方から質問で、「バレエやってると側彎になるって言われたんだけど、どうなんでしょうか?」というのをいただいたことです。

バレエ自体が整体として使えるので、「きちんとしたレッスンを積んでいくことで、筋肉のアンバランスを整えれば大丈夫じゃないかな~」とも思ったんですが…、たしかに、お子さんがバレエをやっていたら、成長期に側弯が強くなるのではと心配かもしれません。

そこで、あらためて側弯について、整形外科的な話や、バレエの背景、女子アスリートがなりやすい3つの不調サインなど、色々な分野の視点で整理してみました。

そのなかで、内容をぎゅっとしぼって
「バレエが側弯に関係あるって、どこからきたのか?」
「側彎症ってどんな状態なのか」
「バレエで側弯になるならどんなメカニズムなのか?」
「今日からできる対策」

に分けてお話します。

これを知っておくと、レッスンや日常でどんなことに気をつけたらいいか、ヒントになると思います。
参考文献などはこの記事の下にすべて載せてありますので、気になる方はそれと一緒にご覧ください。

【1】バレエと側弯が関係する?

まず「バレエと側弯が関係あるってどこから来たのか」という話なんですが、2017年に『思春期特発性側弯症との関連する身体活動および生活習慣』という論文がでています(※1)。

 

 

内容をざっくりまとめると…、
レントゲンで側弯の検査をする二次検査を受けに来た2600名の女子中学生を対象に38個の質問やBMIなどを測ったりして側弯との関係を調べたんですね。

結果を簡単にまとめると、

側弯症の人とそうでない人を比べたとき

・BMI18.5未満、いわゆる痩せすぎのタイプに入る子は、BMI18.5以上と比べて1.38倍
・お母さんが側弯症の場合、そうでない子と比べて1.5倍
・クラシックバレエ経験者はそうでない子と比べて1.3倍

側弯症が多かったとのこと。

この『バレエ経験者がそうでない子と比べて1.3倍、側弯症が多かった』という部分がクローズアップされているんだと思います。

そして、

・バスケとバトミントンは逆で側弯症になっている人は少なかった
・カバンの種類(肩掛けとかカバンの重さなど)とは関係なかった

とのことです。

この論文では、後半の「カバン(例えば、肩掛けよりリュックのがいいのかとか)や寝てる姿勢、姿勢の悪さなどとは関係がないから安心してね」っていうのを言いたかったんだと思いますが、そこにバレエが側弯になりやすい要因かもという話が入ってしまったんですね。

実際には、「バレエが関係しているのか」はこの結果からはわからないと言っています。

でも、3割~4割近く多くいるので、無関係でもなさそうなんですよね。
では、どう側弯と関係しているか、お話する『前に』、側彎症ってどんな状態なのか?ざっくり解説します。

【2】側弯症ってどんな状態

側弯症ってどんな状態?

側彎症は、背骨が左右に曲がった状態のことをいいます。
背骨自体がねじれていることもあります。

側弯になると、
肩の高さや腰の高さに左右差がでたり、
胸郭という、胸骨・肋骨・背骨で囲まれたカゴ(このイラストでいうと赤い四角の部分)が変形します。

さらに症状が進行してひどくなると、
腰や背中が痛くなったり、
呼吸や心臓に影響がでます。

側弯症のタイプは?

側彎症にはどんなタイプがあるか?

整理すると、大きく2つに分かれます。

1つは、機能性側弯といって、背骨には問題ないタイプです。

姿勢が悪かったり、ヘルニアや坐骨神経痛があって、痛くて背中をまっすぐにできなかったり、骨盤の傾きやズレの影響などでなります。

いわゆる側弯が治るマッサージや整体、ストレッチと言われているものは、この機能性側彎症に対するものです。

もう1つは、構築性側弯といって、背骨の並びや背骨自体にねじれがあるタイプです。

神経によるものや、筋肉の病気によるもの、遺伝病、ケガ、などがありますが…なんと、側彎症の8割は、太字ででかく書いた特発性側弯症という原因不明のものです。

思春期になるものがほとんどで、女子は男子よりも7倍なりやすく、日本人の約2%にみられます。
さきほど、お母さんがなってる場合は、なりやすいといいましたが、発症しやすい遺伝子があることもわかっています(※5)。

側弯症の治療方法と方針

では、側彎症になってしまった場合の治療は、どんな風に進むのか。

コブ角という背骨の曲がりに関する基準があって、その角度ごとに治療が変わります。

基本的には手術にならないように予防する、食い止めるのがメインです。

経度のものは、経過観察ですが、全体のうち1000人に3人くらいは装具をつけて矯正する治療をするケースもあります。

なかには手術まで進むケースもありますが、手術までいくのは0.1%ほどで稀です。

ちなみに、「いわゆる整体やカイロはどうなの?」と思う方もいるかと思います。
側彎症学会では「整体やカイロプラクティック、マッサージに科学的な根拠はない」とされています。

でも、あのオリンピック金メダリスト、ウサインボルトも側彎症で悩みながらも、カイロプラクティックと筋トレでコンディショニングすることで結果を残すパフォーマンスをだせているので、コンディショニングとしては使えるはずです。

【3】改めてバレエと側弯はどう関係するのか?2つの視点

さて、ここまで側彎症について、ざっくりお話してきました。

それを踏まえて、『バレエと側弯がどう関係しているのか』改めて掘り下げていきます。

先ほどは、BMI18.5未満の子の方がうんぬんとサラッと言いましたが、BMI18.5未満って、実際どのくらいの痩せ具合かというと、身長160cmで47kgくらいです。

この数字、普通なら相当痩せてる感じですが、バレエでは決して痩せすぎではありません。

つまり、バレエ経験者、しかも練習をハードにやっている子は、BMI的に低い子とかぶってる可能性があるんですね。
この、スポーツがっつりやってて、BMIが低い人という風に重なってくると、骨粗しょう症傾向になりやすいという別の問題がでてきます。

そして、バスケットボールやってる子はなりにくいという結果と比べると…、
同じスポーツをやっていてジャンプも多い種目なのに、一方は側弯になってる子が多くてもう一方は少ないと差がでています。

これは、バレエが引き上げをして背骨の湾曲を減らすテクニックがあることと、関係がありそうなんですね。

それぞれお話します。

バレエはBMIが低くなりがち

まず、バレエはBMI低くなりがちの背景なんですが、ポアントで立つなど、足に過度な負担がかかるのを防ぐために痩せてる方が有利という点はあります。

ただ、痩せすぎてても、体を酷使してプロとしてできないということで、ローザンヌ国際コンクールの健康方針より、出場資格の最低体重というのがあります(※2)。


これをみると、160cmの子で15歳なら41kg、16歳なら42kg、17歳なら43kg、これより体重が低いと失格ということですね。どれもBMI17きってます。

とはいえ、これより上ならOKなんですよね。ちなみに、2004年、2005年の参加者の平均はBMI17.5~18.1でした。

なので、バレエやっていると側弯になりやすいのではなく、プロを目指して頑張っている子はBMIが低くなりがちで、ハードな運動していることが影響しているのかもしれません。

低BMIだと骨にどんな影響がある?

では、BMIが低くなりがちで、運動量も多いとどういう状態になりやすいか。

大きく3つの問題があります。

これは、女子アスリートの3大主候といわれていて
・エネルギー不足
・無月経
・骨粗しょう症
の3つがあります(※11)。

運動量に対してエネルギーが不足することで、
・ホルモンバランスが崩れて、生理がとまる
・低体重になる

さらに、女性ホルモンのエストロゲンが減ると、骨密度が低下するので、骨がスカスカになる骨粗鬆傾向になるんですね。

バレエの場合は、この図でいうと特に左側、低体重と骨粗鬆が引っ掛かります。

一方で、バスケットボールの場合は側弯になりにくいという結果からすると、バレエとバスケで背骨へのストレスがかかりやすさが違う理由の1つは、引き上げかなと思います。

引き上げが、『できてる』『できてない』が背骨のストレス差に

普通に立っている場合、背骨はS字カーブをつくります。

バレエで引き上げができると、体幹の筋肉を使って、この弯曲を薄くすることができるんですね。

「じゃ、引き上げがいけないの?」と思ったあなた、安心してください。むしろその逆です。

引き上げが上手くいかないことで、ポーズをとるのに無理がでて、腰や背中にストレスがかかりやすくなります(※4)。
引き上げがきちんとできていると、コアマッスルの多裂筋も働きやすいので、背骨を支えてくれます。

つまり、引き上げができていることで、背骨にストレスがかかりづらくなるから、BMIが低くても大丈夫なのかもしれません。

要するにこういうこと

つまり、バレエと側弯症に関係があるとしたら、

・慢性的にBMIが低い+運動量が多いことによる骨粗鬆を起こしやすいことに
・引き上げ不足や、ひざ下だけのターンアウトなど、無理な体勢でのレッスンが重なる

ことで背骨にストレスがかかって側弯につながりやすいんだろう、と考えられます。

今日のレッスンからできる対策は?

今回改めて、側弯症とバレエの関係について調べてみましたが、やはり冒頭にお話した通り、バレエ自体が整体として使えるので、「きちんとしたレッスンを積んでいくことで、筋肉のアンバランスを整えれば大丈夫」というのは変わりません。

ただ、低BMIで骨へのストレスがかかるところは注意したいです。

なので、今日からできる対策としては、BMIが低いことへの対策と、背骨のストレスをいかに減らすかがポイントになります。

①栄養バランスの見直し
痩せている方が足の負担が減るとはいえ、食べないで体重を減らすと骨自体が弱くなって、変形や骨折の原因になってしまいます。タンパク質は確保したいですね。カルシウムやビタミンD・Kも積極的にとりたいところ。

②ポールドブラや引き上げ強化
ポールドブラが丁寧にできていると背骨をよくうごかすので、それだけでもストレッチになります。
ただ、背中が硬かったり、引き上げの感覚がなかなか掴めない場合は、プランクなどで腹筋や背筋といった、体幹の筋肉を強くするところからやるのもアリです。以前、バレエの腹筋についてや、背中の筋膜をリリースする方法などを動画でお話しているので、詳しくはそちらもチェックしてみてください。

③プリエやタンデュで、体を上下に伸ばす
プリエやタンデュは、足を動かす運動でもありますが、体の軸を整えてフロアなどで体幹を動かしやすい状態を作る運動でもあります。
お尻がでたり、骨盤がずれたりすることに注意しながら行うことで、背中を伸ばしたり丈夫にしてくれます。

特に4番や5番で、左右のターンアウトに差がないかチェックしておくと、ねじれを防げます。

まとめ

今回の話をまとめると、

バレエと側弯が関係あるのかでいうと、
バレエがというよりは、バレエをしっかりやっている子は、
・BMIが低くなりがちで、骨密度が低下して骨に影響しやすいこと
・引き上げ不足などで、むりな姿勢でレッスンを受けることで背骨に過度なストレスがかかること

で、側弯を起こしやすいんじゃないかと考えられます。

レッスンでできる対策としては、
・ポールドブラ、引き上げの強化や体幹トレーニング
・プリエやタンデュのフォームを見直して、背中を伸ばしたり強化したすること
・ターンアウト左右のアンバランスを修正

です。

今日お話した内容について詳しく知りたい方は、概要欄に参考文献を載せてありますので、そちらもチェックしてみてください。

ではまた次回お会いしましょう。

【参考文献と参考サイト】
※1
https://www.keio.ac.jp/ja/press-releases/files/2017/2/16/170216-1.pdf
「BMI18.5未満とバレエ経験者が側弯に関係性があるかも」というショッキング(?)な内容。「かも」というのは、
1)痩せすぎの人でホルモンバランスなどが崩れているからなのか(低体重による女性ホルモンの乱れは骨粗鬆を起こす・後述のスポーツと無月経参照)
2)レッスン中に無理な姿勢をとっているからなのか(引き上げ不足だと背骨にかかるストレスが増える・後述の引き上げと脊柱の角度参照)
3)そもそも側弯の子がバレエをやっていたり痩せているからなのか
この研究では断定できないからのようです。
原文は『Physical activities and lifestyle factors related to adolescent idiopathic scoliosis』

※2
https://www.prixdelausanne.org/wp-content/uploads/2014/11/PDL-Health-Policy.pdf
ローザンヌ国際バレエコンクールの健康方針
痩せの度合いを、3つのレベルに分けています。このなかで、レベル2より痩せてたらビデオ審査でアウト。
160cmの女子の場合、15歳なら41kg、16歳なら42kg、17歳なら43kgが最低体重でこれより下なら健康的な理由で失格だそうです。

※3
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/21703093/
ダンサーの栄養状態と痩せすぎに関する内容(特に骨に関するもの)

※4
https://www.jstage.jst.go.jp/article/rika/30/6/30_913/_pdf/-char/ja
バレエの引き上げと背骨の角度について、引き上げができてる場合と不十分な場合でレントゲン上でも違いが見えたという内容。

※5
https://www.riken.jp/press/2019/20190826_1/
側弯症を起こす遺伝子座(疾患感受性領域)が14ヶ所わかったよという内容。
原文は『Genome-wide association study identifies 14 previously unreported susceptibility loci for adolescent idiopathic scoliosis in Japanese』

※6
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2011/0/2011_Cb0739/_pdf/-char/ja
(思春期特発性)側弯症において、体幹と脚の筋力に左右差はなかったけど、正常の人よりは筋力落ち気味かもという内容。

※7
https://www.jstage.jst.go.jp/article/cjpt/2008/0/2008_0_B3P1300/_pdf/-char/ja
側弯症のスピード(敏捷性や瞬発力)は体幹の筋力やcobb角とは関係ないという内容。

【参考サイト】
※8
http://kompas.hosp.keio.ac.jp/contents/000181.html
側弯症に関する基礎知識(慶應義塾大学病院・KOMPASより)

※9
https://www.sokuwan.jp/patient/faq.html
側弯症の一問一答式Q &Aページ(日本側彎症学会より)

※10
https://iryogakkai.jp/2012-66-08/398-406.pdf
特発性側弯症について(国立医療学会より)

※11
http://w-health.jp/puberty/sports/
スポーツと月経についての基礎知識(女性の健康推進室 ヘルスケアラボWEBサイト・厚生労働科学研究費補助金を受けた研究班で運営しているホームページより)